カイラス山巡礼
中国
歩く距離・日数52km、2〜3日
基本情報
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特徴
チベット西部、その最奥に位置する霊山のカイラス山(標高6,638m)は、チベット仏教、ヒンドゥー教、ボン教とジャイナ教などの宗教における聖地である。チベット仏教とヒンドゥー教の巡礼者は、カイラス山の周囲52kmの行程を時計回りに歩き、ボン教とジャイナ教徒は反時計回りに歩くことが伝統となっている。多くの巡礼者が踏みならした道が伸びてトレイルとなり、トレッキングの季節になると食べ物のテントも並ぶ。体力、装備に加え、何より高地順応が必要だ。カイラス山はトレイルのどこからでも、その威容を眺めることができる。
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歴史
カイラス山はチベット仏教、ヒンドゥー教、ボン教、ジャイナ教の信徒が一度は巡礼したいと願う聖地である。彼らが畏敬の念を込めて「カン・リンポチェ(尊い雪山)」と呼ぶその山は、祈りを捧げるべき尊い存在であり、巡礼者にとっては登山のように踏破するものではない。全行程を1日で踏破することも可能な巡礼路だが、2週間もの時間をかけて五体投地をしながら祈りを捧げて歩く巡礼者もいる。巡礼路を108周したものは、即身成仏すると見なされるという。
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自然
巡礼路では感動的な谷や川や岩の造形が楽しめるが、旅の花形はなんといってもカイラス山そのものだ。ダイヤモンドの形をしたドーム型の雪を戴くその姿は、仏教の僧侶たちによって「仏が座っているよう」と例えられることも。ギャンガム・チュー谷に立ち寄れば、ギャンガム氷河とカイラス山の切り立った北壁に近づける。1年の中で最も巡礼に適した季節は5月下旬から6月、9月。7、8月は雨、それ以外は雪のため巡礼が困難になる可能性が高い。
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聖なる湖マルサルワールの湖畔に立つと、初めて聖なる山のカイラス山が姿を現す。巡礼者たちによって飾られた五色旗(タルチョ)が巡礼を祝福するようだ。 カイラス山の南面を仰ぐ門前町タルチェン(標高4,700m)から巡礼は始まる。タンボチェの村では、チベット最大の祭礼サカダワが催される。チベット暦4月、太陽暦で5、6月に行われ、巡礼の季節に重なる。祭りのハイライトはタルチョを結び付けるための柱を立てること。新しい柱がどのくらいまっすぐ立つかで、翌年の国の運勢を占う。完全に直立するのが理想的で、傾きすぎるのはよくない前兆とされている。 緩やかなアップダウンの道を歩き、初日に目指すはディラ・プク・ゴンパ(標高5,210m)。13世紀に、カイラス山に対峙するように建立された僧院では、無数の仏像と曼荼羅(まんだら)が迎えてくれる。この寺から先はカイラス北面を間近に展望でき、その山容は巡礼路において最も美しいと言われる。 2日目は最高地点であり、最大の難関であるドルマラ峠(標高5,660m)が待っている。徐々に登りの傾斜がきつくなり、峠道は石や岩が多くなる。峠を越えてからは急坂を下り、川沿いの道を南下。ここからはカイラス東面を拝むことになる。 3日目はおおむね平坦な道が続き、正面に西チベットの最高峰ナムナニ峰(標高7,694m)を眺めながらタルチェンへと戻って1周となる。 ポーターを頼み、荷物をヤクに運んでもらうことも可能だ。簡易宿所を利用すればベッドで眠ることもできるため、快適にトレイルを歩くことができるだろう。 この巡礼路は、チベット仏教、現地の土着宗教であるボン教、ヒンドゥー教、ジャイナ教の教徒たちにとって等しく聖なる巡礼路とされている。チベット仏教では山を歩いて1周することを「コラ」と呼び、外国人旅行者が2、3日掛けて歩く道を1日で踏破してしまう。 そしてヒンドゥー教では、カイラス山はシヴァ神とパールヴァティー妃が住む聖なる山とされ、巡礼はパリクラマと呼ばれる。やはり仏教徒と同様に時計回りに歩く。ボン教は反時計回りだ。 カイラス山は、巡礼を介して、さまざまな信仰や文化を持つ人々を引き寄せ、結び付ける。信仰を越えて共有されたシンボルを歩く巡礼者は、互いに友愛の念を呼び覚ます。周回の道を歩く、すなわち目標や夢の実現を目指す者たちの絆がここにある。 ※最新情報は現地サイトにてご確認ください。